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げんばまきこの書きしごとなど、ぽつぽつ集めてみました


by hitohiroya

山のババたちから学ぶこと

月刊クーヨン(クレヨンハウス)2003年7月号「環」のページ

「もう大豆蒔いたかぁ? 昔から大豆は半夏(ルビ・はんげ)までに蒔けって言うでなぁ」「スイカは実がついてから40日で食べ頃じゃ。今年は上手にできとるでか。はっはっはっ」 麦わら帽子の下から、山のババたちの日焼けした笑顔がこぼれる。

 大阪から、徳島県木頭村(ルビ・きとうそん)に家族で移住してきて5年目になる。清流のほとりに小さく古い家を借り、数羽の地鶏を飼い、晴れた日は子ども達と畑仕事に汗を流して暮らしている。下手っぴいだった畑仕事もなかなか様になってきたよなぁと、にんまりいる私だが、ベテランのババたちから見れば「あー、もう見ておれん」って感じなのだろう、いつもあたたかくさり気なくアドバイスしてくれる。

 畑に限らず、私たちにとってここでの暮らしは知らないことばかり。とにかく毎日が新鮮だ。耕地の少ない山間地帯で、互いに助け合ってたくましく生きてきた村のじぃやババから学ぶことはあまりに多い。自然と生きる術を体で知っている人たちである。山のこと、川のこと、食のこと、住のこと・・・長年の経験から得てきた知識は、机の上で学ぶことのできない重みがある。そして、身近な自然の素材をを巧みに利用し、決してモノを浪費しない暮らしぶりや、じぃやババたちの腰にぶら下げた鉈(ルビ・なた)や鋸が使い込んですり減り、それでも常に手入れが行き届いているのを見るに付け、自然の中に暮らしがあることをしみじみと感じるのだ。

 転じて、私たちの(町の)暮らしはどうだろうか。「環境の時代」と言われて久しいが、プラスチック製品が大量生産・消費され、遠い国から食材を搾取し、毎日膨大な量のゴミを出しているこの国で、私たちは本当に自然を取り戻す方向にむいているのかと考え込んでしまう。特に、高度経済成長期以降に育った私たちの世代は、ボタンやキーの操作は知っていても、自然とどう向き合って暮らしていくかについては、ほとんど無知に等しいのが現実だ。効率やスピードの中で見失ってきたものは大きい。今、じぃやババたちの世代から受け継いでおかなければ、ますます自然から隔絶された暮らしに向いていってしまうのではないだろうか。

 この村は、30年前に持ち上がった細川内(ほそごうち)ダム計画に反対し、2000年に悲願のダム建設中止を勝ち取った村である。一度始まると止まらないと言われた巨大公共事業を、「カネはいらん。川や自分たちの暮らしを守りたい」と跳ね返したじぃやババたち。その強さの源はやはり、風土に寄り添って暮らす「豊かさ」を実感していること、そして自然の中で生きる術を知っている自信からくるように思うのだ。

 今日もじぃやババたちは、守られた清流の瀬音を聞きながら、山や畑でいっぱい汗をかき、「はっはっはっ」とたくさん笑って暮らしている。そんなじぃやババたちの暮らしの中から、複雑だと思われがちな環境問題を解くヒントが見つけられるような気がする。
by hitohiroya | 2003-07-01 00:00 | my works